一。Wの庭園(ウォーターガーデン)
父が亡くなった事で、海のある住み慣れた土地を離れることになった澄緒。
これから住む街には、12年前に離婚した実の母がいる。
そして、母の再婚した相手(既に他界)の連れ子である、同い年の弟、右がいた。
辛い事や苦しいことがあったら、海が、何でも流してくれる・・・
幼い頃に父から言われた言葉は、今でも澄緒の支えになっている。
でも、この新しい家には海がない。
そして、トイレの水を流す音が、波の音に似ているという事に気付いた澄緒は、時々トイレにひきこもって気分を落ち着かせるのだった。
新しい土地で上手くいかない苛立ちから、右にあたり、自暴自棄になる澄緒。
しかし、唯一の友達志穂と友達以上と噂されるくらいに仲良くなり、何となく落ち着き始めたかに見えた学校生活。
右を何となく意識しながら、男と女の力の差や男への嫌悪感などから、何となくぎくしゃくし始める。そして・・志穂の裏切り・・・
一度読んだだけだと、何となく内容がつかみずらい気がします
何度も読み返してみて下さい。
二。マーブルピンク
望月作品の中で、上位に入るくらい好きな話。
中学2年の4月。新学期。
偶然、校内で血を流して倒れている男の子と出くわした菊子。
彼が持っていたのは、一つのピンポン玉。
そして、涙。
彼の残していった血痕に桜の花びらが落ちたのが印象的な出来事だった。
その男の子は、新しいクラスで隣の席になった北城。
クラスの中では誰にでも人当たりがよく、笑顔を振りまいている。
しかし、何故か自分一人にだけ、冷たい態度を取られる。
滅多に人を嫌うタイプではない菊子だが、自分が北城から嫌われていると思い込む。
しかし、とあることからそれが誤解であるという事を知る菊子。
複雑な家庭の事情。
それを発散することが出来る教室。
笑顔を振りまくこと。
いつしかそれが偽善的に思えてきて・・・
つい菊子に八つ当たりをしてしまっていた。
自分にだけ見せてくれる本音や、手の表情と本当の表情とのギャップに少し儚く思いながら、菊子はいつも通り、素直でまっすぐに北城と過ごしていく。
「居場所が出来たら、そこに置く」
と言ってピンポン玉を持ち、そのままでいて、と菊子に話す北城。
鈍感な菊子だけど、その言葉はとても嬉しかった。
少しずつ北城が気になりながら、突如不安になるのは何故か?
早くしないと、北城が連れていかれちゃう!
しかしそんな菊子に、優しく握手を交わす北城。
静かに微笑みながら、握手をする。
でも、左手の握手は、お別れの挨拶だって・・聞いた気がする。。
そして、翌日から北城が学校に来なくなる。
家の会社が倒産し、引っ越すことになったという。
再び、一人になった菊子。
そして・・・自分の机の中に、一つのピンポン玉を見つけ・・・
それは、居場所が出来たらそこに置くと北城が言っていたピンポン玉。
どうして気付けなかったのか?
言葉にしてくれなかったから、気付くことが出来なかった・・・
色々な思いが交差し、菊子は涙する。
赤と白が奇妙に混ざりあう。
北城の色。
そして、それは、模様となって・・・
「マーブルピンク、私の初恋の色でした」
最後が、好き。
まっすぐで、素直な菊子が、鈍いながらも・・・最後の最後に気付けて良かったのではないでしょうか。
気付いた後、もうどうすることも出来ないやるせなさが、
胸を締め付けます。
いいです。この話。
次は「純粋培養閲覧図」です。