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空気人形

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古びたアパートで秀雄と暮らす空気人形に、ある日思いがけずに心が宿ってしまう。人形は持ち主が仕事に出かけるといそいそと身支度を整え、一人で街歩きを楽しむようになる。やがて彼女はレンタルビデオ店で働く純一にひそかな恋心を抱き、自分も彼と同じ店でアルバイトをすることに決めるが……。


確か、ディア・ドクターの試写会に行った時だったと思う。
配布された映画のちらしの中に、この映画のちらしが入っていた。

リンダリンダリンダペ・ドゥナだ!
そしてなんだこのメイド服の可愛さは!

ふわふわして、目がおっきくて、メイド服を着こなしてしまっている!
きっと可愛らしい映画なんだろうな、そして監督もあの是枝監督だし!

なんて思いながら、公開されたら絶対観に行こうと思っていた作品だった。

是枝作品、実は今回でまだ2回目。
1回目はかの有名な誰も知らないなんだけど、絶望的ともいえる現実を生きる子供達の話だった。だけど辛く悲しいだけの話ではなくて、少しだけ希望が見えてくるような――そんな不思議な余韻の残る映画という印象を受けた。

公開されても予定が合わなかったり金欠だったりで観に行けずにいた映画だったのだけど、オークションで安くチケットを落札して、いざ!

公開から時間が経っているせいもあって、一人で観に行った私以外には二組のカップルと、一組の親子?の7人だけしかいない空間で観た。


観に行こうとしている映画のレビューは、欠かさずチェックしている私なので、最初に持ったイメージとはかけ離れた作品であることは理解していたつもりだった。

しかし・・・想像以上。

過激な性描写、とか、そういう問題ではない。
なんだろう・・・

中学生や高校生や、ううん、まだ異性と付き合ったことがない女の子は、自分の好きな人は爽やかでキラキラして輝いていると、自分好みの理想な想像を作り上げてしまっている部分がないだろうか。

だけど実際に異性と付き合ってみると、現実は違うという事を突き付けられる。

どんな男だって、性的な欲求はあるし、もしかしたら少し人とは違った性癖を持っているかもしれない。

綺麗なだけじゃない。
誰だって、汚い部分(とか言うと失礼ですか?)がある。

・・・というような、そんな世の男性の性的欲求や吐き出し口を、リアルに、現実的に具体的に映像として映画の中に組み込まれている。

それは、人形相手に性欲を満たしたり。
美少女フィギアを手にしながら、発散させてみたり。
人が好さそうな人間が、突然豹変したり。


女の私から見たら、そういうシーンは思わず目を背けたくなったのが正直なところ。
自分の好きな人が、綺麗なだけの人間ではない、と知っているし、分かっていたはずなのに。

そんな描写と共に、この物語に出てくる登場人物達は、何処か空虚な心を抱えながら生きている。

過食を繰り返す女性。
老いる事に恐怖を感じている女性。
死を待つだけの人生を、虚無感と共に生きる老人。


この周囲の人間は、直接的にはペ・ドゥナ演じる人形との絡みがない人が多い。
けれど、その数シーンの中で、確実に観ている側に「心を持っている」人間の空しさや虚無を伝えてくる。

だからこそ、突然心を持ってしまった人形が、軽やかに部屋を飛び回り、いつしか外へと飛び出し、みるもの、きくもの、そんな全てに興味や関心を持ち、楽しげに笑う姿が鮮やかに写る。

そして同時に、性欲の吐け口代用品である人形を演じているシーンの、全くの無表情にゾクりとする。


ビデオ屋の店員を演じる、ARATAが素敵です。
「ピンポン」のメガネをかけていた時も大好きですが、メガネを取ってもやっぱり美しいですね、彼は。


そんなビデオ屋の店員が、空気が抜けてしまった人形に空気を吹き込むシーン。

お互いに体が汗ばんで、息も荒くなって、まるで抱き合った後のよう。
直接的に交わった訳でも何でもないのに、何処か官能的で、そしてとても美しいシーンだった。




ラストシーンは、私なりの解釈だと、

写真の彼女は事故で死んでしまい(しかも自分のバイクに乗せていて、事故った)、彼女のいない人生を生きている事に空しさを感じている彼。

「空気を抜きたい」というのは、彼なりに何か死んでしまった彼女と重ねていたのだろうか。

私の中では、死にたい願望があった彼が、自分自身で自分を傷つけたのかなと思っていた。
だから一緒に死んでくれ、というような望みを持っていたのかな、なんて。

だけど、私はいつだって理解力や読解力がない人間なので、ネタバレサイトなどを観てみると、その解釈とは全然違っていて「なるほど」と納得したのである。

そうか、だから人形はあんな行動を取ったのか・・・




とにかく、ペ・ドゥナが可愛らしい。
メイド服があんなに似合う人がいるだろうか。

心を持った事で、見るもの、聞くもの、触れるもの、様々なものに関心を持って、くるくると変わるその生き生きとした表情が、とても可愛い。

それと同時に、性欲のはけ口という本来の役目を果たしている時の、なんと無表情な事よ。

その対比もさることながら、
人形であることが災いして、理解することが出来なかった様々な事が、あの悲しいクライマックスへと導かれていき――

板尾は、やっぱり「ごっつええ感じ」のイメージが私の中では強いのだけど、この気持ち悪いくらいの人形への愛情表現を、怪演していたと思う。
冒頭のシーンで「イメージと違う!」と思われた観客は結構いると思う。
それも板尾のこの演技があってこそのもの。


見終わって、しばらく経ってからじわじわじわじわと染みてくる映画。


若いカップル向けではないな。

人によっては、そのシーンだけでも目を背けたくなり、席を立ってしまいたくなるかもしれないし。
この映画を観終わった後、ラブラブな気持ちにはなれないだろうし。


元々心を持っている人間も、結局は中身は空っぽで空しいだけの日々を送っている。
それは私みたいな人間もそう。

元々心を持たない人形が、だから心を持った事で感じる嬉しさ、楽しさ、悲しさ、苦しさ・・・


空しいだけの毎日を生きる人に、絶対に観て欲しい映画だ。


未だにこの独特な余韻が消えない。
良い映画だ。

この作品は、一人でひっそりと観たい映画かも。