リリイ・シュシュのすべて

この作品を見るのは、どれくらいぶりだろう。

映画館で２回。
ＤＶＤを購入してから、もう何度も見てきた映画だ。

どうしようもなく気分が落ちた時、救いを求めるように見てしまう映画。

暗くて、重くて、それこそ救いのないような映画だ。
だけど何故だろう、それが何処か心地よくて、私はいつの間にかまたこの映画を見ている。

思えば、こんなに何度も何度も見た映画ってあっただろうか。
そして、見る度に私はこの独特の余韻に浸ってしまう。

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この映画に出てくる14歳の少年少女達は、何処か大人びているけれどやはり子供だ。

14歳。
大人でもなく、子供でもない微妙な年齢。

運賃は大人料金。
だけど体は少しずつ大きくなっていって、だけど大人がいないと生活は出来ないし、一人で暮らしていく事だって出来ない。

行動範囲は地元とその周辺。
自由に使えるお金など限られている。
狭い世界。
学校という小さな世界が、まだ自分達の生きている世界だと思っていた頃。

この映画の中の14歳の少年少女達は、あまりにも過酷でリアルな現実を生きている。

家族離散、優等生からの転落。その孤独と葛藤を上手く吐きだすことが出来ない少年は、次第に屈折した思いを吐きだし始める。

援交、いじめ、家族問題、進路、暴力、レイプ、殺人――

彼らを取り巻く環境は苛酷さを増し、ただ目の前に広がるのは真っ暗な闇だけ。

ただ一つ、「リリイ・シュシュ」という歌姫だけが少年を支えてくれる。

優等生からの変貌を遂げる、問題行動の主犯格・星野。
星野からいじめの対象にされ、理不尽な事をされながらも逆らうことが出来ない蓮見。
星野に弱みを握られ、無理やり援交をさせられている津田。
クラスの女子から露骨に嫌悪され、ハブられている久野。

スクリーンデビューとなった本作で、津田を演じているのは蒼井優。

目を背けたくなるような悪夢に、気丈に振舞っているようで実はもろくて弱い津田を演じている。

「あんたがあたしを守ってよ」

「カイトになりたい」

その、ちょっとした言葉と表情が・・・上手い。

特に、カイトを手にして無邪気に笑っている表情と、その後のシーンの対比があまりにも凄い。

そして、台詞が少ないながら圧倒的な存在感を持っているのは、伊藤歩演じる久野。

背筋をピンと伸ばした、ピアノを弾くその姿はとても美しい。
表情一つ一つで、しっかりと久野という存在を見せつけてくれる。

優等生から、問題児へと転落するグループのリーダー・星野を演じるのは忍成修吾。

うっ屈した思いを、ああいう形でしか吐きだすことの出来ない彼の脆さと、残忍さの表裏一体になった存在を、こうも見事に演じてしまえるのだ。

そして、自分の好きな人がこれから遭わなければいけない出来事を知りながら、止める事が出来ない弱い自分を思い、悔し涙を流すシーンを演じたのは、市原隼人。

俳優デビュー作故、演技は拙いながらも、14歳のリアルを見事に演じている。

出演俳優のどれもが素晴らしい。

全編に流れるドビュッシーの美しい旋律。
リリイシュシュの音楽。

田園の美しい緑。

絶妙なカメラワーク。

全てが見事で、そして泣きだしたくなるほどに美しいのだ。

映画を観終わった後のこの、放心してしまいそうになるくらいの余韻。

それは、この映画以外にはありえない。

いつ見ても色あせない映画。
やはり、凄い作品だと思う。

ドビュッシーの美しい旋律が、今も頭の中を巡っている――