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檸檬のころ

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いっそ痛いと思った、その痛みだけは思い出せた。かっこ悪くて、情けなくて、でも忘れられない瞬間がある。田んぼと山に囲まれた、コンビニの一軒もない田舎の県立高校を舞台に綴る、青春の物語。

豊島ミホさんの本です。

いつも素敵な本の紹介記事を書いていらっしゃる、ゆうきさんのブログ(http://blogs.yahoo.co.jp/y0u6k0i2)で記事を読んで、とても気になっていた本です。

早速、新宿に行った時に買ってきました。

物語は、とある田舎町にある県立高校を舞台にしたもの。

タンポポのわたげみたいだね
金子商店の夏
ルパンとレモン
ジュリエット・スター
ラブソング
担任稼業
雪の降る町、春に散る花

7つの短編集。
一つ一つの主人公は違うんですが、根っこは繋がっているというか。
同じ町、同じ高校を舞台にしているから、一つ一つの話が微妙に絡み合っています。

特にお薦めなのは、

タンポポのわたげみたいだね』

保健室通いの「サト」とその友達「橘」の話。

高校1年の春。

サトは、皆を惹きつける魅力を持った女の子だ。
休み時間にはクラスの女子を集める力を持っていたし、いつだってキラキラしていた。
そんなサトと友達になった橘。

放課後には、一緒に寄り道をした。
プリクラを取ったり、雑貨屋さんに行ったり。
毎日は楽しくて、雑誌の中の女子高生になったような夢をみることが出来た。

でもそれは、過去の話。
高校2年になり、サトは新しいクラスに「何だか、なじめない気がする」とぼやく。
そして、いつからか遅刻が多くなり、教室に行かなくなり・・保健室に通うようになっていった。

そんなサトを迎えに行くのが橘だった。

唯一クラスで言葉を交わす存在の橘。
友達?
だけど・・いつまで続けなくてはならないんだろう?
何で私が、保健室にサトを起こしにいかなくてはいけないんだろう・・?

違うクラスの男の子が、橘にアプローチをしてきて、そしてサトとの絡みがあって・・最後はちょっと温かい感じで終わります。

橘が、サトのことを「姫君」と称したり、サトが皆の人気者だったと語るので、全然気づかなかったのですが・・

『・・・私はちゃんと知っていた。自分が皆の視線を集められるくらいの容貌を持っていて、サトは別の意味で皆の視線を集めてしまうってことも、ちゃんと。そういう自分の汚い部分は、見てみぬふりをしてきた。』

宮崎あおいに似てるって噂されるくらいの可愛い女の子なんですね。橘は。
だけど、自分は分かっていても口にはしない。
見てみぬふり・・

なんか、色々共感してしまうこともあったり。なかったり。

『ルパンとレモン』

中学の頃西には、両思いの女の子秋元がいた。
同じ高校に入り、中学を卒業してもこれからも・・ずっと続いていくと思っていた二人の時間。

高校3年生の夏。

西の隣にいるのは、野球部のエース佐々木で、秋元の隣にリーチをかけている。

どこから狂ってしまったのか、どこでどう間違えてしまったのか・・

高校入学から学年を一つ上がっていく度に、いつからか秋元との距離は遠くなっていった。

そして今、佐々木が秋元にアプローチをしていて、秋元もその想いを快く思っている事も分かっている。

『痛む。繰り返す。』

『会うことがなくなっていれば、痛くも痒くもなく、水に溶けるようにスムーズに、秋元への感情は消えていったかもしれない。』

痛い程、忘れられない想いを胸に抱えるだけ。
やり場のない想いをどうしていいか分からずにただ、痛む。

秋元との思い出「レモンの香りのリップクリーム」が淡い淡い記憶となって溶けていく。

偶然電車の中で、鉢合わせてしまった二人のやりとりがきゅんと胸を締め付けます。

ちなみに・・
最後の『雪の降る町、春に散る花』という話は、秋元と佐々木の話です。語り手は秋元。
大学進学になり離れ離れになってしまう二人の・・切ない恋の話です。

で、一番のお薦め!

『ラブソング』

「音楽があれば何もいらない」
いつもMDウォークマンを聴いている音楽オタクの白田。
将来は、音楽ライターという夢を持っている。

そんな音楽オタクの白田が、ひょんなきっかけでクラスメイトの辻本と親しくなる。

音楽があれば、他に何もいらないと思っていた世界が、突然変わる。
辻本に恋をし、辻本のことを考え・・・

好きな音楽の好みが同じ。
好きな音楽の話でずっと時間を忘れて話したり。
それだけで、白田は嬉しくなる。

とある日、幼馴染の志摩のレビューが、某音楽雑誌に掲載される。
そのビックニュースを、素直に喜べない白田。
自分自身の書いたレビューやライブの感想を見比べてみる。
それは、無様でわかりづらくて・・なきたくなるほどだった・・・

そんな時、
バンドをやっている辻本から突然、作詞を頼まれる。

引き受けてしまったものの
悩んでも悩んでも一向にうまい言葉は出てこない。
そんな白田を高いところに行かない?と誘う辻本。

このシュチュエーション・・告白か?と思っていたドキドキ感は
突然崩れ落ちる。

「俺、白田さんとずっと友達でいたいなーとか思っちゃった」


漫画みたいに上手くいかない。
恋なんてそんなもの。

とか思いながらドキドキして、そして最後には笑顔になってしまうような・・
そんな爽やかな物語です。


音楽オタクで、音楽ライターを目指していて、クラスのうるさい女子に冷めた感情を持っていて。。
ってめちゃめちゃ自分?!みたいな気持ちになれて面白かった。

作中、

グレイプバインは?」

「バイン好き!超好き!」

という会話があったり

くるりのさあ、『東京』知ってる?」

とか

「さっきの鼻唄、『君を待つ間』だよね?」

とか

くるりとか、バインとか・・自分の好きなバンドの名前が出てきて読んでいて嬉しくなってしまいました。

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1982年生まれの作家さんだそうです。
っていうことは、一個上ですね。

それでいて、「私の高校時代は『底辺』でした」と語る作者。

「地味な人なり」の青春を描いたこの本。

同じく地味な人(きっと高校時代のクラスメイトのほとんどが私の存在など覚えていないだろう)だった自分には、とても共感できる作品ばかりでした。

これは、もう本当に・・お薦めです!!